RACDA高岡

2023/04/22(土) 講演会
「SUMP(持続可能な都市モビリティ計画)とは」

2023/03/22(土)、ウイング・ウイング高岡 研修室503にて、RACDA高岡総会開催記念講演会を開催致しました。
講師は富山県地域公共交通戦略会議の鉄軌道サービス部会長を務めておられる関西大学経済学部 宇都宮浄人教授にお願いし、「SUMP(持続可能な都市モビリティ計画)とは」としてご講演いただきました。RACDA高岡会員、一般聴講者合わせて35名の参加がありました。


 関西大学経済学部 宇都宮浄人教授



 「SUMP」はヨーロッパでは広く浸透

・オーストリアでは、1日3ユーロ(約450円)で一日乗り放題
・ドイツでは、49ユーロ(約7,350円)で一ヶ月間乗り放題
・イギリスでは「緑の産業革命」として政府が「鉄道復活」を明示

※SUMP=「Sustainable Urban Mobility Plan」の略("さんぷ/サンプ"と呼ぶ)


 「SUMP」導入の必要性

・移動ができないことにより生活の質の低下が起きている
・一定の人口集積で、地方が抱える様々な課題が解決できる


 「SUMP」の8つの原則

「SUMP」とは何か。具体的に8つの原則についてご説明いただきました。

「日本では駅の周辺が市街化調整区域に指定されムダになっている」
といったお話もあり、日本では
「公共交通行政とまちづくりが統合的に行われていない」
ということが印象に残りました。

・「SUMP」の特徴は「人」に焦点をあてて「生活の質(QoL)」を重視すること

※QoL=「Quality of Life」の略

『バックキャスティング型』の計画も特徴的

ビジョンと目的をまず立てる。

その後「どうすればそれが実現できるか」を考えていき、施策を策定する


「SUMP」フェーズ1【準備と分析】

・私たちの持つリソースは何か?
・計画の背景は何か?
・都市が抱える問題と「opportunity(利益を得るためのチャンス)」は何か?

最初期であるフェーズ1から「市民参加」が考えられていることが特徴



 「SUMP」フェーズ2【戦略策定】

・取り得る選択肢は何か
・どのような都市にしたいのか
・成功か失敗かの判断はどう判断するのか

「クルマだけ」「何もしない」「全て公共交通にする」など、考えられる選択肢を全て考えた後にビジョンをまとめていく。


 「SUMP」フェーズ3【施策計画】

計画が議決されたときには、市民が広場に出てお祝いをする。


 「SUMP」フェーズ4【実施とモニタリング】

進捗状況を市民や利害関係者の間で情報共有


 ダウンズ・トムソンのパラドックス

・道路を広げると自動車量が増える。さらに増えると渋滞が増えて費用(時間)が増える。

・公共交通はその逆。渋滞せずにたくさんの人が移動できる、が固定費は高い。
 利用者が増えると費用は低下する。(利用者が減ると割高になる)

「公共交通サービス」と「道路整備」のバランスが、生活の質を高めるため、税金の有効活用のために大切。


 マンチェスター(イギリス)、高床トラムの導入で市街地の空間を再編


マンチェスターは郊外の旧国鉄線を利用するために高床LRVを導入



・フェーズ1(1992年):北部の鉄道と、南西部の鉄道を、中心市街地の路面走行することで直通化
・フェーズ2以降、ネットワークが拡大。利用者は開業時の4倍に増加

氷見線、城端線と高岡市の関係に似ている。参考にできるのではないか。


 会場の様子


質疑応答では、
Q. ヨーロッパの公共交通は行政が運営しているが、日本では民間が担っている。
 日本では同じようにはいかないのではないか。
A. 日本は民間でおこなっているが、「民間では行えない」ということが近年わかってきた。
 「採算ベースで考えてはダメ」と、国も富山県も考えている。

Q. ヨーロッパでは成果を出している「SUMP」も日本に導入しようとすると
 政治家や官僚に形骸化されてうまくいかないのではないか。
A. 政治家が悪いのではなく、市民が変わることが大切。
 日本の市民はまだわかっていない。

Q. 日本で本当にうまくいくのか?どうすれば良いのか。
A. 「ウルトラC」的なものはない。
 地道に、あきらめず、何度も働きかけていくことが大切。

Q. 高山線は富山市がお金を出して列車を増便している。が、利用者はそんなことは誰も知らない。
 「これは私たちの税金で増便している列車」だとヘッドマークなどで知らせることはできないか。
 市民の参加意識を高めるためにはどうすればよいか。
A. 今「SDGsバッジ」が流行っているが、今後「SUMPバッジ」になるかも?

Q. 郊外には歩道がない。道路の整備もまだ足りない。駅にも危なくて歩いていけない。
A. ヨーロッパでも歩道の整備を進めている。
 オーストリアでは単線の鉄道であっても両側にホームがある例もある。
 (駅構内で線路を横切る必要がない。)このことで駅に歩行者がアクセスしやすくしている。

Q. 道路に予算がつかなくなる、ことになるというのであれば、ちょっとそれはどうなのかと思う。
A. 道路を否定しているのではない。日本の現状は「QoL(生活の質)」が低い。
 修正の余地があると考えている。
 欧州では行政が「鉄道計画」を持っている。日本には無い。
 もっと統合的に「QoL(生活の質)」を上げていくべき。

Q. 欧州では当たり前の「(自動車-鉄道の)利用分担率」が、日本では何故データが取れないのか。
A. 費用がかかるため。大都市圏では10年に一度行っていたりする。
 データを集め、統計を取ることは最も大切なこと。

Q. 公共交通が独立採算性を採っているのは日本だけなのか?
A. 欧州では、インフラが"公"、運営は民間や第三セクター会社が多い。
 バスは、行政が民間事業者と「何年間、どう走る」といった運行委託契約している例が多い。

Q. 「SUMP」も日本風にアレンジする必要はあると考えるか?
A. アレンジの必要はある。が、哲学(考え方)は取り入れていくべき。

(意見) 今日の講演会は女性の参加者が少ない気がする。
 女性が参加しやすいよう工夫していくべき。
 気軽に参加できる「飲み会」で仲間を増やしているのも良いかもしれない。


などの問答がありました。




(( 感想 ))
富山県知事も「SUMP」の考え方に賛同いただだいており、日本の「SUMP」最先端は富山県。富山県といえば「SUMP」
といったお話が印象的でした。

日本の各自治体のウェブサイトでは理想的な将来像が描かれた「ビジョン」がPDFでダウンロードできますが・・・
実際に行われている施策は、全く統合的ではなく、一部の人の意見で、場当たり的に実施され、結果には誰も責任を持たない・・・

ということが頻発しています。

ヨーロッパでは、市民が最初期の段階から構想に関わって、
・「みんなで意見を出し合って」
・施行される段階では「市民が喜んで歓迎する」
・責任は「市民が持つ」
と、誰も責任を取らない日本とは対照的なのが面白いと思いました。


何かにつけて「政治が悪い。役所が悪い」と言わないよう、私たち市民は自戒し、地域社会をどうするか、私たちが「自分ごと」として捉えること。

私たち自身の意識改革から始めることが大切だと考えさせられました。

日本もより豊かな「QoL」重視の、洗練された社会になっていくことを期待し、今後も私たちのできる範囲の活動を行って参ります。